satoaki’s 雑感

日々感じたこと

<フロント企業>

フロント企業」を辞書で調べますと「暴力団が設立し、経営に関与している企業。あるいは、暴力団と親交のある者が経営し、暴力団に資金提供を行うなどして組織の維持・運営に積極的に協力・関与する企業」と書いてあります。簡単に言ってしまいますと、「暴力団の顔を隠した暴力団企業」ということで、つまりは暴力団と変わりないことになります。

ですので、「フロント企業」の目的は「暴力団であることを隠すこと」です。そうすることで警察の監視の目を逃れながらを企業の利益を暴力団に提供することができます。「フロント企業」の実質的なオーナーは暴力団組長もしくは幹部ですが、表向きの経営者は「フロント企業」の代表者ですので、なにか問題が起きても責任が組長などに及ぶことはありません。暴力団にとって「フロント企業システム」の一番のメリットは、真のオーナーである組長もしくは幹部に責任が及ばないことです。

先週、福岡地裁暴力団の組長に対して死刑判決が下されました。港湾事業の利権に絡む殺人事件の裁判でしたが、この裁判の焦点は「組員が犯した犯罪で暴力団組長の責任を問えるか」でした。判決は「組長の責任を認めた」ことになりますが、こうした判決がなければいつまで経っても「トカゲの尻尾切り」で終わってしまい、真の意味での解決はできないままになってしまいます。

フロント企業システム」と似たような形態として「院政」があります。「院政」を辞書で調べますと「現職を引退した人が、なお実権を握っていること」と書いてあります。表向きのトップを思いのままに動かし、しかも責任は追及されないのですから、これほど気楽で居心地がいい立場はありません。

しかし、「責任を負わなくてよい」立場の人が公平な社会を実現するための正しい決断をできるとは思えません。「責任を負わなくてよい」立場は、仮に失敗したときに実害や損失が自らに及ばないからです。「責任を負わない」を言いかえるな「実害が及ばない」です。自分自身に損失や損害が及ばないのですから、結果を案ずる必要もありません。

僕は自サイトで「フランチャイズシステム(以下FCシステム)」について持論を展開していますが、FCシステムの一番の問題点、俗な言い方をするなら「ズルい」点は本部がリスクを負わないで済むシステムになっていることです。FCチェーンの中でもコンビニ業界は本部がある程度リスクをとっていますが、店舗運営に従事している加盟店主に対してかなり不利な条件を押しつけています。

本質的なことを言いますと、コンビニが本当に儲かる業界であるなら、本部はFCシステムという形態をとらずに直営で店舗を展開しています。コンビニ業界が発展しているのは店舗を運営しているからではなく、加盟店から加盟金やロイヤリティを召しあげているからです。仮に、すべてのコンビニ店舗が直営であったなら、従事する人に関する人件費のほかその他もろもろの経費が発生し、現在ほどの発展はなかったでしょう。

最近はFCの問題点が少しずつ報じられるようになっていますが、似たような収益構造として「指南システム」が登場してきています。「指南システム」は僕の造語ですが、飲食店の開業方法を教えることで報酬を得るシステムです。例えば、ラーメン店やパン屋さんの開業方法や製造技術、運営ノウハウなどを教える見返りに報酬を受け取るシステムです。つまり、「指南すること」で報酬を得ることになりますので、運営に関するリスクはありません。それに対して開業する人たちは数百万円~数千万円という大きなリスクを負うことになります。

ラーメン店やパン屋さんなど飲食店は一般の人が憧れる商売の一つですが、実は開業するのはさほど難しくはありません。お金さえ準備できるなら、もしくは借金をする資格があるのなら誰でも開業できます。大切なのは「継続する」ことです。しかし、言うまでもなく「継続できる」人はほんのわずかです。

これまで紹介してきました「FCシステム」や「指南システム」は、実際に前面に出て現場で活動するよりも、うしろに控えて前面で活動している人たちに指導や指南をするほうが利益を得るのが容易であることを示しています。これと同じことが政治の世界にも当てはまる場合があります。

1980年代マスコミから風見鶏と揶揄されながらも首相にまで上りつめたのが中曾根康弘氏でした。中曽根氏は弱小派閥でありながらも当時の最大派閥田中派の支持をとりつけ首相にまでなりました。ですので、いろいろな場面で田中派の意向をうかがいながら政権を運営していたのですが、中曽根氏は田中派の意向も尊重しながら自らの政治家としての信念も遂行していたように思います。

中曽根氏とは対照的に、派閥の意向など全くお構いなく自らの信念を曲げずに首相に就いたのが小泉純一郎氏です。小泉氏は「自民党をぶっ壊す」をキャッチフレーズに選挙で勝利を収めました。それまでも、そしてこれからも派閥の意向を無視して総裁選に臨む人は出てこないのではないでしょうか。

民主主義における選挙システムは支持を集めた人や組織が勝利するシステムです。ですが、支持を得たいがために自らの信念を変えてしまっては本来の民主主義の意義を失わせることになります。民主主義における選挙は自らの考えを発表して、投票者に訴えるのが本来のあり方です。支持を得るのではなく投票者に自らの主義主張を訴えるのが選挙の目的です。

もし「投票者に訴える」のではなく「支持を集める」のが目的になってしまいますと、それこそ支持者たちの「フロント企業」ならぬ「フロント政治家」になってしまいます。現在マスコミでは、自民党の総裁選に立候補をする方々が注目されていますが、どれだけ派閥の支持が集められるかが焦点と伝えられています。

現在、最も大きな派閥は細田派ですが、実質的には安倍派といって差し支えないでしょう。その安倍派を率いる安倍氏の「森友学園問題」について、候補者の方々が「再調査しない」と表明しています。しかし、国民の多くが「森友学園問題」について疑問を感じている中で安倍派の意向を忖度したような対応は「フロント政治家」になる危惧を感じてしまいます。

「フロント政治家」になり下がってしまった政治家に清く正しい政治ができるはずがありません。まだ告示もされていませんが、是非とも自らが責任を負う覚悟を持ち、そして派閥の意向などにとらわれない政治家が立候補してくださることを願っています。

…、自民党支持者ではないけれど。

じゃ、また。